7日に行われたFC東京戦で3-0の勝利を収め、15年ぶりとなるマリノスのJ1リーグ優勝を果たしたアンジェ・ポステコグルー監督の采配について、オーストラリアで活動するジャーナリストのシャバブ・フセイン氏(@ShababHossain13)が『The Roar』で記事を公開しました。
フセイン氏は『Goal』オーストラリア版をはじめ、『Football Today』『FTBL』といったオーストラリアの各種サッカー系メディアに記事を寄稿し、『Daily Football Show』『Football Nation Radio』などにも参加しています。今回はフセイン氏に直接コンタクトを取り、本人から許可を得て全文を翻訳しました。ポステコグルー監督の母国から届いた今シーズンの総括をどうぞご覧ください。
ポステコグルーの日本制覇を成し遂げた戦術
サウス・メルボルンでの慎ましき始まりから横浜F・マリノスを日本の王者へ導くに至るまで、アンジェ・ポステコグルーのフットボール哲学は選手とファンを同じように魅了してきた。
一般的なフットボールと同様、元サッカルーズ監督のエートス(信念)は彼の20年にも及ぶ監督人生を通して進化し、この横浜のチームは挫折の上に成就した成功だった。
この任務を殊更難しくさせたのは、フットボールに対する考え方から日常生活に至るまで、全く異なった価値観を持つ国に54歳の監督がいたということである。彼は自分のメッセージを、日本人のみならずブラジルやセルビアから迎えられた選手たちに対し、言語を超えてしっかりと伝える必要があったのだ。
では、どのようにしてポステコグルーはJ1リーグ優勝を彼の経歴に加えることができたのか?ここでは横浜のカギとなる3つの戦術を見ていくことにしよう。
トランジションにおける縦への意識
リーグ最高の平均63%を記録したように、アンジェ・ポステコグルー率いる一団は試合中ほとんどの間ボールを支配するが、ボールを奪った後のわずかな瞬間こそが彼らの最大の脅威である。
Jリーグ王者のトランジションは美しさそのもので、守備から攻撃へと急激に転換する。対戦相手は、逃した得点機にこだわるあまり、マリノスの選手たちが大挙して素早く追い越していくので、その影を追い掛けることに終始してしまう。
こちらの動画では、マリノスがこのシチュエーションを完璧に組み上げており、自陣から敵陣に到達するまで約12秒となっている。この時間帯にフォワードは決定機を逃してしまうが、素早いカウンターアタックによってチーム全体が巻き返し、ポステコグルー流の好例となっている。
試合をコントロールしようとしてペースを落とし、その間に陣形を整えるチームがある中で、横浜はボールを奪ったらできるだけ素早くアタッキングサードへと侵入すべく、即時奪回を狙っている。
重要なのは、選手たちは無造作に前へと蹴り出しているわけではなく、ダイレクトかつ縦方向へのパスを素早く通し、自身のエリアを上げているということである。フォワードはボールの受け手となるために深くまで下りてくる。相手ディフェンダーを惹きつけ、新たに生まれたスペースへと走り込むミッドフィールダーにコースを明け渡すのだ。
前線からの守備
プレスは今や現代サッカーの一部となった。好んで深くに引くよりも攻撃することを良しとし、カウンター攻撃を狙うチームにとっては特に、である。フォワードがボールを保持するディフェンダーに対して、ビルドアップの余地を与えるよりも寄せに行くというのはよくあることだ。
ヨハン・クライフはかつてこう言った。「私のチームにおいて、ゴールキーパーは最初のアタッカーであり、ストライカーは最初のディフェンダーである」と。
ポステコグルーはそうした原則を、MVPに輝いた仲川輝人、ブラジリアンのエリキ、マテウスといったフォワードの選手たちに求めた。容易に通せるパスコースを中盤の選手が消しながら、前線から相手にプレスを掛けさせたのである。
フォワードがハイプレスを仕掛ける際、その他の選手も上がらなければならない。つまり、ディフェンスラインはブロックを高めに敷くことになる。こうして相手はエリアを狭めながらパスのオプションを探し、リスクを嫌ってロングボールを蹴るが、それは結果的にマリノスがポゼッションを奪い返すことへと繋がる。
もしロングボールがディフェンスラインを超えるとすれば、バイエルン・ミュンヘンのマヌエル・ノイアーのようにスイーパーキーバーの役割を果たすパク・イルギュが対応する。FC東京戦のラスト20分で退場となってしまったように、ペナルティボックスを出た後ボール奪取に失敗したとしても、だ。
こうした攻撃的な構造におけるプレスは全ての選手に役割を理解させ、前へと押し出すスタミナを持つことを必要とする。ボールを持つ展開と持たない展開についてチーム全体に説く、という並外れたことをポステコグルーが成し遂げたのは明らかなのだ。
縦方向への制圧
このマリノスというチームにおいて特に魅力的なのは、エリアが伸縮自在な点にある。攻撃的なプレスと相手のスペース限定を同時に行いながら、ポゼッション時には相手を押し広げるのである。
マリノスのプレーメーカーの筆頭であるマルコス・ジュニオールは、普段はストライカーと中盤の間でプレーしているが、縦方向に駆け回ることでアタッキングサードを含む広いスペースにオーバーロードの状態を作り出している。
マルコスはスペースを探し、作り出すことに長けている。オーバーロード状態においては、普段ディフェンスラインの裏を抜けるためにチャンネルを走っていくストライカーのランニングを見つけ出すことを好む。
フルバック(サイドバック)については、左サイドに位置するタイ代表のティーラトン・ブンマタンがピッチ上に嵐を巻き起こす一方で、右サイドの松原健はやや慎重に、チームをカウンター攻撃の脅威から守っている。
自陣深くに引いて、マリノスの無慈悲なまでのプレスに対抗しようとするチームについては幅を取ることが重要となるが、ポステコグルーはトランジションにおける脆さを作ることなく、アタッキングサードにおいて十分な存在感をしっかりと発揮させるシステムを見つけ出したのである。
“The tactics that helped Postecoglou conquer Japan” by Shabab Hossain
https://www.theroar.com.au/2019/12/10/the-tactics-that-helped-postecoglou-conquer-japan/#comments-section